何を恐れ、何に怯え、誰に殺されたのか。
その女は何一つ覚えちゃいない。
全部全部全部、縄で吊るしてしまった。
大切な人との記憶も、すべてを失った彼女には不幸の一つとしてすり替えるしかない。
後悔した事象の忘却。
彼女はそうすることでしか、正気を保てない。
生前、狂いに狂って、暗い部屋で自らを吊るしたのだから。
もう、なくなってしまった貴族の話。 1人の戦災孤児が狂わせた、歯車の話。