庭のあの、桜の木を見るたびに俺は思う。俺は本当に、故郷を捨てたかったのだろうか、と。 数年前の俺なら、間違いなくそうだと答えていた。 けれど、けれど。……この場所は、あまりにも故郷に。遠衛の屋敷、懐かしいあの家に似すぎている。 だから今になって、義絶した故郷のことを思い出してしまう。 戻れるのだろうか。戻りたいのだろうか。 もし――戻ることが許されるのなら。俺はきっと、その道を選ぶんだろうね。 (出典:桜之荘)