「ふふ、本を買いに来てくれたの？……冗談よ。私はエリザベータ・ヘーデルヴァーリ、古書店の店長兼……その先は、秘密。女は秘密がある方が綺麗でしょう？」
路地裏にひっそり佇む古書店に、彼女はいる。優しげな目をした店長は、はたして本当の姿だろうか。答えは否だ。その名が示す通りに居場所を渡り歩き、時として他者を騙すスパイとなる。誰も彼女の本性など知る術はない。けれど、勘違いはいけない。そのどれもが彼女自身で、眼鏡を掛けた美人な音楽家には驚くほど弱いのだから。