……どこかで、誰かが泣いている。うっすらと開いた瞼。その向こうで、誰かが泣いている。 誰だろう、と思っても。名前も、顔も、分からない。ただ、私の手を握っている。それだけは分かる。 「きねま」 誰かが、私をそう呼ぶ。私は、どうにもできなくて。 それでも、不思議と唇は動く。 「大好きだよ、お父さん」 ――これは、誰の記憶だろうか。私の記憶ではない、けれど、私の記憶。 (出典:オリジナル)