[夢幻の向こう側]伊庭 欣三
レア度:
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白く暖かな光。顔を撫ぜる風に微睡み、俺は眼を開いて。二度、三度と目を瞬かせ、白に包まれた自分を見る。
黒ずみひび割れた手。乱雑に伸びた無精髭。焦点の合わない胡乱な瞳。絶望を知る、俺の醜悪な姿。
それはどこにもなく。あの日、あの場所の若い姿。そして――。
「……ああ、本当に。本当に長く待ちました」
目の前に見える見慣れた、しかし懐かしい姿。柔和な微笑みを見て、久しぶりに笑って。
行きましょう。たくさん、話したい事があるんですよ。
ええ、そうですね。まずは――。
(出典:桜之荘)